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トラウマ・インフォームド・ケアに基づいた妊娠・出産支援者研修会 実施報告書


2024年7月20日、21日の2日間にわたり、トラウマ・インフォームド・ケアに基づいた妊娠・出産支援者の研修会を名古屋で行いました。

延べ8名のドゥーラ、助産師、心理士、研究者と言った多様な参加者と一緒に、周産期におけるトラウマ・インフォームド・ケア(TIC)に基づく支援について講義及びグループワークを通じてじっくり学び・話し合いました。

また、研修と懇親会を通じて参加者間のつながりをつくることができ、孤立しがちなTIC支援者同士のネットワークを作ること、そして支援者自身のエンパワメントにもつながる会となりました。

 

 

 

 

 

 


 

 




 















以下、講義や参加後のアンケートの概要をご紹介します。

 

1.講義:トラウマインフォームド・ケア DV・性暴力・虐待のトラウマ

講師:長江美代子氏

日本福祉大学福祉社会開発研究所 研究フェロー

一般社団法人日本フォレンジックヒューマンケアセンター(NFHCC)副会長

精神看護専門看護師(American Nurses Credentialing Center:ANCC認定)、公認心理師、SANE-J

 

講義の様子

職場や家庭で暴力や性被害にあい、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になって社会復帰できない人や、生きづらさを背負っている人が想像以上にたくさんいる。しかし医療現場を含む現代社会は、DV被害者に対して「それは我慢しなければならないもの」という誤った認識が根強く存在し、まだまだ冷たい状況にあることを、インタビューやカウンセリングで聞いた言葉を通じてご紹介いただきました。ほとんどの被害者は、複数の暴力や複雑な事情が重なった状況にあること、また支援窓口でPTSDや被害の理解が足りていないこともあり、支援につながらないことも多いそうです。

暴力を受けた女性のほとんどは、妊娠出産が「良かった・嬉しかったという記憶がない」というデータは、DVが女性と子どもの人生に大きな悪影響を及ぼすという証明です。長江氏が出産ドゥーラに注目する理由の一つに、「女性の出産に関する記憶を育み、守る」というドゥーラの役割があります。一般的な周産期支援の内容はDVの渦中にある妊婦には逆効果であり、DVの理解及び適切なトラウマ・インフォームド・ケアに基づいたドゥーラのような継続的な支援が、暴力の連鎖や世代間に影響することを防ぐ一助となるということです。

更に、男性性暴力被害者や思春期の被害者についても特有の課題があり、個人の問題ではなく公衆衛生=社会の問題として捉え、対策をする必要があるということでした。


2.講義:日本特有の出産環境とその影響

講師:白井千晶氏

静岡大学人文社会科学部教授、全国養子縁組団体協議会代表理事、養子と里親を考える会理事

 

日本と国外の様々な病院の建築的構造を提示していただき、病院の部屋やベッドの配置そのものが、管理する側・される側を隔てる構造が作られていることを学びました。さらに、その構造の視点から、病院と自宅での出産ではどのように異なるかを考え、産む人を尊重しエンパワーすることの重要性、また、それが構造として阻害されているという、出産を取り巻く環境を社会問題として考える機会となりました。

さらに、出産の時にされて嫌だったこと、言われて傷ついたことなど、当事者の言葉を共有していただき、ケアを提供する側として身の引き締まる想いでした。だからこそ、適切なトラウマ・インフォームド・ケアに基づいた継続的な支援が必要であると強く実感し、この研修、そしてプロジェクトの必要性を再確認できました。

講義後のディスカッションでは、診察台にカーテンがあり、内診の施術側が見えないという世界にも稀な日本の内診台を例に挙げ、その良い面も悪い面もあるということを認識し、内診を受ける人がどう感じるかが重要で、オプションがあることの重要性を参加者と共感することができました。


研修会の様子

3.講義:サバイバーの出産支援ドゥーラ編

楽しそうな講師

講師:伊東清恵氏

ドゥーラ、バースエデュケーター、

ラクテーションカウンセラー、

元日本の看護師、マタニティヨガ、産後・ベイビーヨガ講師

 

サポートする人がサバイバーであるかないかに関わらず、決めつけや思い込みによる対応をしないように、よく耳を傾け寄り添うというドゥーラの具体的な支援方法を教えていただきました。必要であれば他の専門家につなぐのもドゥーラの大切な役割の一つです。陣痛中にどう過ごしたいか、何が心地よく感じるか、どんな声かけがいいか、身体に触れるか触れないか、など安心で心地よい空間ができるよう妊娠中から相談しておくこと、そして陣痛の最中は常に産む人とコミュニケーションをはかり、様子を観察し、その状況にあったサポートを提供するということでした。

伊東氏によると寄り添う、とはジャッジ(決めつけ)しない、自分が当事者になったつもりで考えることだそうです。また、支援者に余裕がないと他人のサポートも難しいということでセルフケアの大切さも学びました。





4.講義:妊娠出産に関するトラウマインフォームドケア 産後編

講師:杉本敬子氏

医療創生大学国際看護学部教授、看護学博士、 助産師、保健師、看護師

WSGB教育者研修受講(シアトル, 2017)

 

優しそうな講師

最後に、サバイバーの産後に特に焦点をあてて杉本氏にお話しいただきました。助産師や教授として国際保健や母子保健に携わってきた杉本氏は、2017年に米国シアトルでペニー・シムキン氏とフィリス・クラウス氏によるWhen Survivors Give Birth(WSGB)というワークショップのインストラクター講座を受講されました。性暴力サバイバーの妊娠・出産・産後の支援について網羅された講座です。今回はWSGBインストラクターとして初めての日本語による日本での講座となりました。

性暴力の体験は、産後も身体的・社会心理的・性的・精神的に影響し続けること。そればかりか、妊娠出産そのものがトラウマ的であった場合、更に二次的被害となりPTSD等の症状が発症もしくは悪化する可能性もあるということです。それを防ぐためには産前と産後にカウンセリングを行うのが望ましく、その際は産んだ人とともに出産体験を対処すること、が大切です。カウンセリングの際に気を付ける5つの提案をいただきました。

 

講義のあと、グループに分かれてロールプレイ演習を行いました。各グループで事例を取り上げ、「母親の気持ち振り返りシート」や杉本氏の講義で提案された5つのポイントを利用しながら産んだ人、ケアラー、観察者として演じ、感じたことを共有しました。

 










まとめ


参加者からは、アットホームで学びの多い機会になったというご意見を多数いただきました。また、温かい雰囲気の研修会で、支援者同士のつながりもできたことが実り多かったとの感想もありました。本研修会の目的は、現場で活かせるトラウマ・インフォームド・ケアを学ぶことと、支援者同士のつながりを深めることだったので、どちらも達成できたことは大変嬉しいです。

今回は少人数での研修会となり、交流が深めやすいという点では大変良かったですが、会の扱う内容としては大変深刻で、もっと社会的に広まらなければいけないものなので、その点では参加者が少なかったのは課題と言えます。今後、アウトリーチの仕方について専門家のアドバイスも仰ぎながら、より一層性暴力被害やトラウマ・インフォームド・ケアについて広め、性暴力のない社会を目指して行きたいと思います。

 

本研修は『ドコモ市民活動団体助成事業』からの助成金により開催しました。

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